週刊朝日増刊号「全国漢方治療医リスト1941人」  


女性の病気・排尿障害
西洋薬がだめでも漢方がある
原因が不明の場合などに好適


●平成13年4月
●熊谷わこ記者による取材
 

●猪苓湯+四物湯での奏功例

 排尿の悩みは毎日のことだけに深刻だ。東京都板橋区在住の主婦C子さん(40)は35歳ごろから排尿にかかわる、さまざまな不快感に悩まされるようになった。頻繁に尿意を催し、排尿時にはしみるような痛みを感じる。残尿感があり、いつもすっきりしない。 いくつもの大病院で細菌感染の有無や白血球数を調べ、膀胱鏡などの検査を受けたが異常はなかった。「気のせい」と言われても納得できないC子さんは、知人から「根気よく治してくれるお医者さんがいる」という評判を聞き、片道2時間近くかけて仁藤博部長の診察を受けた。

 「患者さんが排尿痛、血尿、頻尿、残尿感などの症状を訴えていても、さまざまな泌尿器関連の検査で異常が出ないことがあります。泌尿器以外の病気によって不快感が起きていることもあり、患者の年齢を考慮し、訴えをよく聞きながら根気よく原因を探していきます。更年期が遠因で外尿道口が狭くなっていることもありますし、内痔核の治療をしたら頻尿が治ったという人もいます」

 C子さんの場合は、どうしても原因がわからなかった。尿道から膀胱の周辺を内視鏡で見ると、わずかに粘膜が厚くなり、白斑がついている程度で異常とはいえなかった。そこでさまざまな抗生物質とステロイド薬(プレドニン)を投与してみたが、一時的に少し症状が軽くなるだけで長くは続かなかった。

 「私は、西洋薬で治せる、なんらかの原因疾患がある、という考え方で患者さんを診ています。実際、原因がわかれば、西洋薬のほうが切れ味がいいですからね。しかし、いくら調べても、どうしても原因がわからなかったり、西洋薬が効かない場合があります。そんな場合、抗生物質などを漫然と長期間投与しても副作用が出るばかりで患者さんにとって何のメリットもありません。そのときこそ漢方の出番です」

 そこでC子さんには猪苓湯(ちょれいとう)と四物湯(しもつとう)それぞれ1日7.5グラムを3回に分けて飲んでもらった。その後、2週間おきに来院してもらったが、症状は一進一退で、なかなか効果が表れなかった。が、C子さんは診察の終わりに、必ず「あの薬をお願いします」と自分から希望し、飲み続けた。「服用していると、なんとなく楽だったのでしょう」

 効果がはっきりしてきたのは、飲み始めて3ヵ月近くたったころ。診察のたびに何かしら不快感を訴えていたのが、ぴたっと言わなくなり、すべての症状がほとんどなくなったという。そのまま5年間飲み続けた。服用を中止して数年になるが、再発はしていないそうだ。

 仁藤部長は、女性には証にこだわらずに、まず猪苓湯や四物湯を処方することが多い。排尿痛が比較的弱く、尿検査で異常が見つからない頻尿や神経性の膀胱症状にとてもよく効く。四物湯は冷えをとり、体調を整える補血剤だ。ただし、吐き気や下痢などの胃腸障害が出ることがあるので、そのときは清心蓮子飲(せいしんれんしいん)や当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)に変更する。またC子さんのように排尿痛が軽い場合には猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)が適薬だが、痛みが強いときは五淋散(ごりんさん)を使う。

 「C子さんのように、じわじわと効果が表れる場合もあります。漢方薬は長期に連用しても副作用の心配はほとんどないので、ゆっくり待つことが可能です」

●更年期の女性にも効果

 主婦S子さん(53)は2年ほど前から頻尿と残尿感に悩まされるようになった。検査ではやはり何の異常もなかったが、尿道の粘膜がやや萎縮気味だった。仁藤部長がよく話を聞いてみると、月経が不安定になってきて、ほてり、のぼせなど更年期特有の症状も訴えた。S子さんはがっちりした体格の実証タイプだ。

 尿道周辺はエストロゲンという卵胞ホルモンの支配を受けているため、更年期でエストロゲンの分泌が減少すると、尿道が萎縮して尿が出にくくなることがある。この場合はエストロゲン入りの軟膏を塗るだけですぐによくなることもあるという。 S子さんは軟膏を使ってみたが、あまり症状が改善しなかったため、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)を1日7.5グラム、3回に分服してもらった。

 「更年期による排尿障害には当帰芍薬散や猪苓湯も使いますが、S子さんのような冷えのない実証タイプの人には竜胆瀉肝湯が適しています」

 S子さんは服用1週間後くらいから少しずつトイレの時間が空き、2週間後には頻尿と残尿感はなくなり、のぼせ、ほてりも楽になった。

 「人間の生活の質を考えるうえで排尿にかかわる不快感は、たいへん大きな問題です。西洋薬で治せないと言われても、まだ漢方という手段がありますので、決してあきらめないこと。医師のほうも根気よく治療すべきです。患者さんにとっての名医とは、明快な診断をつけるよりも、むしろ、あらゆる手段を使って苦しい症状を取り除く医者のことだと私は思います」

 と仁藤部長は話している。

 
 
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