ホームドクター社「NEW SRRATEGY ON UTI」

 


「高齢者における泌尿器疾患と感染症」


●平成13年8月
●編集・発行 株式会社ホームドクター社
 



 
 
 

 

 
 
司会
武蔵野赤十字病院泌尿器科部長 仁藤 博 先生  
  長尽会長久保クリニック会長 長久保一朗 先生  
  国家公務員共済組合連合会立川病院泌尿器科部長 藤岡 俊夫 先生  
  東京医科大学八王子医療センター泌尿器科部長 松本鉄夫 先生  
  青梅市立総合病院泌尿器科部長 友石 純三 先生  
 
     
  一般に高齢者は、尿路系はもとより種々の基礎疾患を有する憲者さんが多く、また排尿障害のためカテーテル留置例も少なくないため、複雑性尿路感染症のハイリスク群といえます。一方、経過が無症候性に推移するため尿路感染症が腎機能に大きく影響を残すこともあり、適切な対応が必要となります。そこで、東京・多摩地区でご活躍されている専門家の先生方に、高齢者における尿路感染症に対する対策等についてご討議をいただきました。  
     
  高齢における泌尿器疾患の特徴

 
 

仁藤 本日はお忙しいなか、お集まりいただきましてありがとうございます。早速ですが、これより「高齢者における泌尿器疾患と感染症」をテーマに座談会を開催させていただきます。
 一般に、高齢者は加齢に伴って種々の生理的な変化や免疫能の低下、さらには、さまざまな基礎疾患の発症・進展が認められてくると思います。まず最初に、藤岡先生より、高齢者の泌尿器系の特徴について簡単にお話しいただきたいと思います。

藤岡 高齢者では、膀胱の機能低下や残尿量の増加に伴って膀胱容量の低下が認められます。また、膀胱壁の伸展性も悪くなってきます。こうした生理的変化に加えて、脳血管障害などの合併症がある場合には、袖経因性膀胱として、不随意に膀胱が収縮し排尿障害を来すこともあります。膀胱収縮筋と尿道括約筋の不調和による残尿の増加。さらには、男性では前立腺肥大症や前立腺癌など尿路の閉塞性疾患により排尿障害を来すこともあります。高齢者、特に男性では、膀胱、前立腺の変化に注意しておくことが必要と思われます。

仁藤 高齢者の大きな特徴の一つとして残尿のお話がありました。確かに、慢性に経過する膀胱炎では、残尿があると治療に難渋する場合があります。治療として適切な抗菌剤を投与しても膿尿が続いたり、あるいはいったんは軽快するものの再発を繰り返す症例などでは、残尿がある場合が多いと思います。こうした意味で、残尿・排尿障害に対する対応が重要となりますが、長久保先生の施設ではどのような治療方針を立てておられますか。

長久保 残尿・排尿障害に対しては、その原因疾患をみつけてそれを取り除くことが一般的対応となります。私のところでは、カテーテル留置はなるべくしないことを基本方針として進めています。基礎疾患の種類によって一槻にはいえませんが、例えば前立腺肥大症などの場合、手術や内服療法を勧めます。それらにより残尿は確実に減少します。また、自己導尿法を患者さんに指導してもいます。ただ、神経因性膀胱の場合など、どうしても留置しなければならない例もあります。
 現在、留置カテーテルを施行している人は外来患者で 20人程度おりますが、重症の糖尿病や寝たきりの方が多いようです。

仁藤 自己導尿は確かに有用ですが、介護する家族の方の負担も大きく、そういう場合を含めカテーテル留置も止むを得ない場合もあるかと思います。カテーテルを留置していると、尿が混濁する例がしばしばみられ、膿尿だけでなく、尿から菌が検出される場合もあります。友石先生の施設では、いかがでしょうか。

友石 私どもの施設では、老人病院などからの紹介例も多いため、開放のままカテーテル留置をしている例も少なくありません。そのような場合、最初のころは、膿尿が認められるものの、症状はあまりなく、熱発する例はそれほど多くはありません。しかし、カテーテル留置が長期化するにつれ、熱発するようになり、抗菌薬を投与しなければならない例も出てきます。菌が検出されても、当初、耐性菌はそれほど認められませんが、最終的にPsuedomonasが検出されるケースがあります。また、時にMRSAも検出されることがありますが、幸い、当施設では高度耐性株はありませんので、Psuedomonasにいちばん難渋しています。

藤岡 私どもの施設ではPsuedomonasはそれほど多くはなく、やはり、 MRSAのほうが多く検出されます。

仁藤 いろいろな施設からの報告でも、両菌が問題となるものが多いようですね。Psuedomonasはバイオフイルム形成も含めて除菌が難しいと指摘されていますが、耐性株が増加していますか。

友石 ほとんどが耐性株で、その多くは抗菌薬が無効であるため、Psuedomonasが検出された場合、抗菌薬の投与は中止しています。

松本 私どもでは、カテーテル留置例であっても、特に症状がない限り、抗生剤は投与しておりません。

友石 症状がなければ使わないですね。

仁藤 高齢者のように慢性化する場合には、カテーテルや結石などの異物の処理・管理を適切に行うことが重要になると思います。また、カテーテル抜去が不可能な場合には、バイオフィルムへの対応としてマクロライド系とニューキノロン剤の併用が有効との研究報告もあり、参考にしていくことも一つの方法ではないかと思われます。

有熱性尿路感染症に対する対応

仁藤 次に、カテーテル留置例などで熱が出たときなど、どうしてもすぐに抗菌薬を使わなければならないケースへの具体的な対応について伺いたいと思います。そのような場合を想定して、カテーテル交換などの際に尿培養を行うことが基本的だといわれていますが、開業医の先生方の場合、尿培養を常には行いにくいという実状もあり、どうしても抗菌薬をエンピリックに使用せざるを得ない場合が多く、キノロン剤の選択機会も多いかと思います。熱がある症例では、消炎鎮痛薬を使用する場合もありますが、キロノン系薬とNSAIDsを併用すると、痙攣の発現頻度が高くなるといわれています。実際に、併用により痙攣を起こしたご経験はございますか。

松本 高齢者ではありませんが、比較的若年者でジクロフェナクとの併用により痙攣を起こした例があります。

友石 幸か不幸か、私は経験ありません。

仁藤 私も経験がありませんが、同じニューキノロン系薬、同じNSAIDsであっても薬剤によって、また投与期間によっても痙攣の出現頻度は異なると思います(表1)。痙攣については、β−ラクタム系薬でも起こす可能性を無視することができませんし、抗菌力の面から考えますと、どうしてもニューキノロン系薬を選択することが多くなると思います。その場合には、ニューキノロン系薬、NSAIDsのなかでも痙攣を誘発しにくい薬剤を使用する必要がありますね。また、ニューキノロン系薬のなかには、光線過敏症が比較的高頻度で認められるものがあるといわれていますが、この点についてはいかがでしょうか。

友石 私は何例か経験しています。

長久保 私も経験しています。特に、夏は光線過敏症を発症する可能性が高く、薬剤選択に注意が必要と思います。

仁藤  ニューキノロン剤のなかでは、トスフロキサシンやレボフロキサシンは、光線過敏症は少ないといわれていますね。しかし、一部のニューキロノン系薬では、高頻度に出現することもいわれていますので、ニューキノロン系薬選択のうえで考慮しておくべきポイントではないかと思います。

尿路感染症起炎菌の約4分の1はEnterococcus

仁藤 藤岡先生から、高齢者の特徴として膀胱の問題とともに、前立腺についてのお詰もありました。前立腺炎は、近年増加している印象があります。長久保先生、いかがでしょうか。

長久保 確かに増えている印象があります。前立腺炎は非細菌性と細菌性に分けられますが、これまでは非細菌性のものが多いといわれてきました。しかし、最近ではよく検査すると細菌が検出されるものも少なくありません。しかも、Enterococcus属など、抗菌薬が効きにくい菌が検出されることが多いですね。私どもの施設での検討では、分離された菌のうちEnterococcus属が最も多く、24%を占めていました(図1)。

仁藤 Enterococcusは常在菌ですが、尿路からもときどき検出されますね。Enterococcusを起炎菌と考えてよろしいでしょうか。

長久保 起炎菌と考えてよいと思います。

松本 私も、単純性膀胱炎だと思われる患者さんで、開業医の先生から「なかなか治らない」として紹介されてきた患者さんの尿を培養したところ、Enterococcusが起炎菌と考えられるケースを経験しています。起炎菌と考えていいと思います。

仁藤 Enterococcus属のうち、どの菌種が多いですか。

長久保 E.faecalisが最も多いですね。

仁藤 長久保先生はトスフロキサシン(TFLX,オゼックス錠)などのニューキノロン剤を使用される機会が多いと伺いましたが、E.faecalisに対して有効な経口抗菌薬が少ないなか、トスフロキサシンは他のニューキノロンに比べてE.faecalisに対する抗菌カが比較的強いといわれていますね(表2)。具体的な治療はどのようになさっていますか。

長久保
 私は慢性前立腺炎等の疾患についてはニューキノロン剤の単剤投与は行わず、膀胱の刺激症状をとるために、ナフトピジルなどの排尿障害をとる薬剤との併用をしています。また、前立腺のマッサージ療法も併行して実施しています。

松本 抗菌薬はどのくらいの期間投与しますか。

長久保 抗菌薬は、投与量を漸減しながら1〜2カ月投与します。そして、2週間に1度の来院ごとにマッサージを行っています。マッサージは抗菌薬投与終了後も実施し、経過を見てまいります。

仁藤 いま先生は非常に重要なことをお話されたと思います。これは細菌だけではなく、Chlamydiaなどでもそうですが、抗菌薬投与中に検査しても、抗菌薬投与により菌が検出されないだけで、実際には菌が存在する可能性もあります。そのため、抗菌薬投与終了後1〜2週間後に検査しなければ、本当に治ったかどうかの判定はできないと思います。

高齢者の慢性尿路感染症への対応

仁藤 高齢者では免疫能が低下していることもあり、易感染条件にあります。だからといって、高齢者の感染症が増えているとの印象はありませんが、高齢者の感染症では、熱が大して出ないなど無症候性のこともあり、診なければ見逃すこともあるかと思います。また、尿路感染症が原因となって、腎機能が廃絶するなどの可能性もありますので、十分にチェックすべきだろうと思いますがいかがでしょうか。

長久保 確かに、症状が少なくわかりにくいため、つい見逃すと、手遅れになることがありますね。

仁藤 ありがとうございました。ところで、慢性の尿路感染症では、再発の防止も重要になるかと思いますが、先生方の施設では再発予防のためにどのような方法を用いられていますか。

松本 私どもの施設では、まず自己導尿を指導しますが、すでに感染症を発症している場合には、2〜3週間通常量の抗菌薬を投与した後、しばらく寝る前に1回分を投与するということは行っております。

仁藤 その場合はどのような抗菌薬ですか。

松本 ニューキノロン系薬です

長久保 私も感染の再発が懸念される場合には、1錠、夜服用させています。

仁藤 こうした予防法を高齢者では考慮していくことも場合によっては必要ではないかと思われます。長期にわたりていねいに診ていくことも大切ですね。

ニューキノロン系薬の可能性

仁藤
 最後に、この機会に、ニューキノロン系薬の位置付けについて少しお話を伺いたいと思います。腎臓結石で水腎症の基礎疾患を有する患者さんが腎盂腎炎を起こした場合、本来は入院させて注射用抗菌薬による治療が必要ですが、経口ニューキノロン系薬を上手に使えば、慢性腎盂腎炎の急性増悪に対しても外来治療が可能であるといわれています。実際に、そのような経験をお持ちですか。

友石 確かに、有熱性腎盂腎炎でも、お子さんがいるなどの理由により入院ができないという患者さんの場合、ニューキノロン系経口薬を3日分など数日間処方して外来で対応することがありますね。その点で治療の幅が広がったのではないでしょうか。 

仁藤 高齢者から話は少し飛びますが、ニューキノロン系薬を使用する機会としてSTDも多いと思いますが、最近、淋菌で耐性を示すものが増加しているとの報告がありますね。友石 そうですね。そのこともあって、淋菌が起炎菌だとわかれば、私はむしろペニシリン系やセフェム系薬を使っています。

松本 しかし、淋菌感染であっても、Chlamydiaを合併するかどうか不明な場合には、ペリシリニン系にはもっていけず、トスフロキサシンのようなニューキノロン系薬を用いるケースも依然多いですね。

長久保 尿道炎の半分くらいは無菌性であることが多いですから、Chlamydiaの合併が疑われるのであれば、ミノサイクリンを使用するケースもあります。

藤岡 私もニューキノロン系かテトラサイクリン系あるいはマクロライド系薬を使います。

仁藤 淋菌とChlamydiaを合併する率はかなり高く、このような混合感染が疑われる場合には、β−ラクタム系薬ではなくニューキノロン系抗菌薬を使用することになると思います。しかし、近年、キノロン耐性淋歯がみられるようになってきており、淋菌であることが明確な場合には、耐性もあり、ペニシリン系薬やセフテラムピボキシル(CFTM,トミロン錠)などセフェム系薬などを使用することになるというところでしょうか(表3)。本日は長時間にわたり、活発なご討議をいただき、ありがとうございました。

 
 
 
     
 
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