臨床情報センター 「漢方医学」 座談会

 

   泌尿器科領域の漢方治療 - <2>

 
 
 
   
●牛車腎気丸のメカニズム −кオピオイド受容体を介した作用−

 
 

 石橋 後藤先生は,頻尿に対する牛車腎気丸の改善効果について,動物実験でみごとな成績を出されていますね.

  後藤
 私どもが研究を開始した当初は,牛車腎気丸の頻尿に対する作用のメカニズムはまだわかっていませんでした.当時は抗コリン作用が頻尿改善には最も重要とされていました.牛車腎気丸を静脈内投与した基礎研究報告では,抗コリン作用に基づくという考え方がされていたのですが,果たしてもっぱら経口投与される漢方薬がそういう機序で正しいのかどうか,われわれには疑問がありました.

 そして,もう一つ牛車腎気丸の鎮痛作用の報告がありました.これは下行性抑制系を活性化することで痛みを抑えるという内容です.私たちは,これが同様に膀胱の充満感も抑えるのではないかと考えました.そういう理由から,患者さんに投与する前にある程度EBMに則ったデータを作成する目的で,ラットを用いその裏づけを取る研究に着手しました.

 まず,膀胱の収縮力を検討した結果,牛車腎気丸は,収縮力そのものは抑えません.しかし,律動的膀胱収縮頻度(頻尿のもとになる感覚)についてはどうかと考え,抗コリン作用のあるアトロピンと比較しました.その結果,牛車腎気丸は収縮頻度をやはり抑えていました.収縮頻度を抑え,かつ収縮力そのものは抑えない.頻尿の患者さんで,われわれが一番困ることをこれで解決できる,そういう結論が動物実験データで出たため,次に実際に患者さんに投与開始しました(図1).



 これまで7症例しか集計していませんが,症例数を増やして現在集計している最中です.現状では,抗コリン剤を投与しても効果がみられない患者さんに対して,抗コリン剤と牛事腎気丸を併用投与し,臨床的にどれだけ効果が出るか検討していますが,現時点でかなり有効な成績を得ています.

 石橋 牛車腎気丸の頻尿改善のメカニズムについて少し詳しくお話をうかがいます.

 後藤 このメカニズムに関しては,牛車腎気丸の構成生薬の中でも修治附子(ブシ)が最も主要な働きをしています.附子単独でも牛車腎気丸とほぼ同等の作用があります.

 われわれはラットを用いた動物実験で,kオピオイド受容体遮断薬であるノルビナルトルフィミンの前処置を行うことにより,牛車腎気丸の膀胱運動抑制作用が消失することを突きとめました.このことから,われわれは牛車腎気丸が鎮痛作用を示すkオピオイド受容体を介して,頻尿抑制効果を発現していると考えています.

 石橋 牛車腎気丸は膀胱の収縮機能は失わず,痛み,刺激をやわらげる,これがそのメカニズムということですか.

 後藤 痛みの抑制に加え,膀胱収縮の頻度を抑制するということが実験結末からいえると思います.

 石橋 一般的に牛車腎気丸は糖尿病性神経障害や腰痛などに効果ありと,臨床的には指摘されています.これが膀胱の場合には,頻尿改善のメカニズムとして働く,そういう理解でよろしいですね.臨床的には,前立腺肥大症などの初期症状で夜間頻尿が比較的よくみられますが,これらに対しては有効でしょうか.

 後藤 私はまだ現在,前立腺肥大症には投与していません.臨床例に用いられたのは脊髄揖傷の患者さんで,神経因性膀胱が対象でした.膀胱充満感の軽減が頻尿の改善になるという方針で,牛車腎気丸の投与をスタートしています.機序から考えた場合,前立腺肥大症を伴った患者さん,また抗コリン剤などを使えない患者さんに,牛車腎気丸はかなり有効であろうと私は考えています.

 石橋 例えば緑内障などがあると,抗コリン剤は使いにくいですね.そういうケースがお年寄りにはかなりあり,牛車腎気丸はそんな場合 大いに活用できます.

 
 
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