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毎日新聞社 「毎日ライフ」 | |||
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| はじめに 泌尿器科に限らず病院やクリニックで最も頻繁に行われるのが、尿の検査です。尿検査から得られる情報は数多く、腎・尿路系疾患はもとより全身疾患のスクリーニングや、また病気の経過観察などに大いに役立つからです。また、尿は検査試料として血液などに比べ、容易に、しかも大量に得られるので、必要があれば何回でも繰り返し検査ができるという利点があります。 しかし反面、尿の成分濃度は生理的変動幅が大きく、また1日の尿量も変動すること、食事などの影響を受けやすいこと、また尿を採取する時にいろいろな他の雑物(腔分泌物など)の混入することもあるので、得られる情報の精度には限度があり、その解釈は慎重でなければならないのも事実であります。 尿の検査の意味を理解するため、まず体内で尿がどのようなプロセスで生成され排泄されるかを述べます。そして、得られた尿を検査することにより、どんな泌尿器成人病が発見されるかを中心に、関連する内科的な成人病を一部含めて解説することにいたします。 原料は血液、工場は腎臓 尿の原料は血液である、というと意外に思われるかもしれませんが、図1を見てください。血液は体内のいろいろな臓器を循環していますが、腎臓はその重要な1つで尿を生成する工場です。工場では血液成分から老廃物を除去する仕事が行われますが、工場内に約100万個ある(1つの腎臓で)ネフロンという尿生成装置で、まず濾過されます。濾過は糸球体と呼ばれる細い血管が糸状の球になった部分で行われるのですが、血管の基底膜といわれるところが重要な役目を果たします。こうして濾過された液(糸球体濾液)が尿の源です(原尿)。 原尿は1日に約150リットルも作られますが、最終的に尿になるのは1日約1.5リットルですから、原尿の99%は再び体内に戻る(再吸収)わけです。このとき同時に身体にとって必要なものは再吸収し、不要なものは捨てるわけです。このようにして腎臓は、水分や電解質など生命維持に重要な成分の調節をきめ細かく行っているのです。
いったんためてから排尿ネフロンを流れてきた尿はだんだん集まってきて集合管に入り、これが杯状をした腎杯に注ぎます。さらに腎盂を経て長くて細い尿管を下降して骨盤内にある膀胱に入り、ここで一時ためられます。膀胱に一定量(300cc以上)たまると脳の命令が出て、仙髄にある排尿反射中枢が働いて膀胱の筋肉が収縮すると同時に尿道括約筋が開いて尿が尿道に押し出され、排尿されます。泌尿器成人病は生成された尿が腎杯から尿道まで排出される過程(図1の腎後性)でおこる病気を扱うものです。 尿蛋白から分かる病気 尿蛋白はほとんどが血液中にある血清蛋白(主にアルブミン)ですが、このほかヘモグロビン(ヘモグロビン尿)、ミオグロビン(ミオグロビン尿)、特殊なものとしてBence-Jones(ベンス・ジョンス)蛋白尿があります。Bence-Jonesはグロブリンが主成分で多発性骨髄腫に特徴的とされています。 腎性の尿蛋白は、糸球体が障害されて(基底膜)、主にアルブミンが漏れて尿中に出るものです。このとき同時に赤血球も漏出しますので、血尿を伴うことが多いのです。尿蛋白が多量に出るので有名なネフローゼ症候群(1日3.5g以上の尿蛋白)がありますが、各種の糸球体腎炎や腎硬化症も尿蛋白から診断されます。尿蛋白と同時に尿沈渣に赤血球や円柱がみられるのも特徴です。なお、何の自覚症状もなく健康診断などでたまたま微量の尿蛋白が発見されることがあります。偶然見つかるのでchance蛋白尿と言っていますが、予後良好のものが多く、生理的ないし起立性蛋白尿とも呼ばれます。ただし、同時に微小血尿を伴うこともあり、IgA腎症のこともあります。 腎後性のものは、尿路感染症(腎盂腎炎、膀胱炎、尿道炎、前立腺炎など)では尿路の炎症による滲出液や血液が尿に混入するための蛋白尿で、同時に尿中に白血球がみられ細菌を検出するものです。尿に多量の血液が混入すると(肉眼的にみても血尿とわかるので肉眼的血尿といいます)、当然血清蛋白も同時に混入することになり、尿蛋白は陽性になります。尿路悪性腫瘍(腎腫瘍、腎盂尿管腫瘍、膀胱腫瘍など)では、腫瘍からの出血による蛋白尿ですが、腎腫瘍では腫瘍が腎静脈に腫瘍栓塞をおこすと多量の蛋白尿をみます。 血尿から分かる病気 血尿には肉眼的血尿と、肉眼ではわからない顕微鏡的血尿とありますが、健康人でも尿中にごく少量の赤血球を認めることがあり、1視野(顕微鏡の強拡大、400倍)に赤血球5個以上をもって有意とすることが多いようです。したがって、尿試験紙による尿潜血反応では製品によって検出感度は異なりますが、1視野2〜3個で陽性となることがありますので、尿試験紙だけでの判定では誤ることがあります。逆に尿中にビタミンCなどの強力な還元物質がありますと、尿中赤血球が存在しても潜血反応陰性となることがあります。 腎前性血尿は、全身性に出血傾向のある場合です。白血病、血友病などです。 腎性血尿は、蛋白尿を伴う顕微鏡的血尿を主体とする糸球体疾患(糸球体腎炎など)は前述の通りです。泌尿器科で扱う腎疾患では、炎症(腎盂腎炎、腎膿瘍、腎結核)、腫瘍(腎癌)、そのほか嚢胞腎、腎下垂、腎動静脈瘻などが臨床的によくみられるのですが、原因のはっきりしないもの(特発性腎出血ということもあります)もあります。たまたま健診などで発見されるchance血尿で、蛋白尿を伴わない場合は予後良好で何の治療も必要のないことが多いのです。しかし特発性と診断するには、血尿のみられる他の多くの疾患をひとつひとつ除外していく必要があり、結論を下すのに時間のかかるものです。こうした除外診断では、定期的に尿やその他の検査をチェックする必要があります。どこも悪くなくて、どうして血尿(微小血尿)が出るのか、という質問をよく受けますが、明確な答えはありません。 腎後性血尿はほとんど泌尿器疾患で(一部に子宮や直腸などの腫瘍)、悪性腫瘍(腎盂尿管腫瘍、膀胱腫瘍など)、結石(腎・尿管結石、膀胱結石など)、前立腺肥大症、前立腺癌、尿路性器の炎症(腎盂尿管炎、膀胱炎、尿道炎、前立腺炎など)など、内科的疾患が顕微鏡的血尿が多いのに比して、肉眼的血尿をみることが多いのです。尿路のどの部位からの出血かを判定するのに、男性では2杯分尿法があります。
図2のように容器を2個用意し、1、2と番号をつけます。排尿のはじめの10〜20ccを1の容器にとり、そのあとの尿は2の容器にとります。血尿が1尿のみ(初期血尿)では前部尿道からの出血、2尿のみの血尿(終末時血尿)は後部尿道または膀胱頸部からの出血、1尿も2尿も血尿(全血尿)ですと膀胱または上部尿路(腎・尿管)からの血尿と判断されます。こんなに厳密でなくても、放尿の時に気をつけてみていて尿の出始めが赤いのか、終わり頃になって血尿が濃くなるのか、初めから終わりまで同じ色なのか、といったことでも判定できます。また肉眼的血尿といっても黒っぽい、紅茶色なのか(上部尿路から)、真っ赤(鮮血)なのか(尿道、膀胱)でも、およその見当がつけられます。 尿糖から分かる病気 水洗便所のまだ普及してない頃に、ためられた尿のプーンと甘酸っぱい匂いから、その家に糖尿病患者がいることを的中させた人がいたそうです。尿糖は古くから糖尿病のスクリーニングに用いられています。 尿の原料は血液ですから、血液中の糖(主にグルコース)が尿に出たものです。糸球体で濾過された糖が尿細管で再吸収されるのですが、これには限度があって、血中の糖が170mg/dl以上あると、すべて再吸収されずに尿中に出てくるのです。 また血糖がそんなに高くなくても、腎臓疾患(ネフローゼなど)で再吸収能が低下して糖尿になる(腎性糖尿といいます)こともあります。健康人でも、ひどく食べすぎたとき、ブドウ糖の注射を受けたとき、ステロイド剤の投与を受けたとき(ステロイド糖尿といいます)、精神的ストレスのあと(アドレナリンの分泌による)などに一過性に尿糖をみることがあります。同じ理由で主に内分泌疾患(クッシング症候群、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症)に尿糖がみられます。このように糖尿病以外にも糖尿をみますが、糖尿病は成人病の1つとして最も重要で、食事による血糖増加に対するインスリンの量的あるいは作用不全の結果発生します。したがって、確実な診断には血糖検査が必要です。 尿ウロビリノーゲンから分かる病気 ウロビリノーゲンは、腸管に排泄された胆汁中のビリルビンが腸内細菌の働きにより還元されてできたもので、ほとんどは糞便中に排泄されるのですが、一部が腎臓から尿中に排泄され尿中ウロビリノーゲンとなります。原料は赤血球です。尿ウロビリノーゲン増加は、肝臓でのビリビルン処理が適正にできなくなる(肝機能障害)か、ウロビリノーゲン産生が異常に増加した時(溶血性疾患)です。肝疾患では、尿中ビリビルンも同時に陽性となることが多いものです。逆に、尿ウロビリノーゲンが陰性となる場合は、ビリビルンを腸管に排泄できない、つまり胆道が閉塞する疾患(胆石、胆道腫瘍など)か、重篤な肝炎が疑われます。 膿尿・細菌尿から分かる病気 膿尿とは尿中に白血球が混入したもので、1視野5個以上をいいます。10個から29個までを<+>といいます。膿尿の存在は、腎から尿道までの炎症性病変(腎盂腎炎、膀胱炎、尿道炎など)を意味していますが、おおざっぱな炎症部位の判定には、2杯分尿法が用いられます。膿尿と同時に細菌が尿1cc当たり1000個(10×10×10個)以上あると細菌尿といい、両者の存在は尿路感染症の診断を確定します。まれに膿尿のみで細菌を認めないことがあり、これを無菌性膿尿といいますが、結核、クラミジア、ウイルス感染が疑われます。 その他の尿の異常 糞尿……尿中に大便が混入するもので、尿路と腸管に交通する膀胱腸瘻などです。 気尿……排尿時ガスの排泄されるもの、糞尿と同じですが、まれに尿中のガス産生菌によることがあります。 乳び尿……尿にリンパ液が混入したもので、尿路とリンパ管が交通したため、尿に牛乳をまぜた時のような白濁した尿の外観を呈します。フィラリア症(わが国では鹿児島、沖縄に多い)が有名です。 塩類尿……尿中の結晶などが、採尿後時間がたつにつれて析出して混濁してくるものです。 尿のpH(水素イオン濃度)や温度の変化で異なりますが、シュウ酸、リン酸、炭酸などのカルシウム塩、尿酸など、もともと尿中の成分ですから病的意味がありません。尿が濁っている、と訴えて受診する患者さんにときどきみられます。ただ病的結晶(シスチンなど)の出現は、尿路のシスチン結石や、その他の代謝異常を伴う尿路結石の診断に有力な場合があります。 この他に、尿中に異型上皮細胞や悪性細胞が出現することがあり、移行上皮癌、腎癌の診断の一助となることがあります おわりに 医学の進歩とともに、多くの高度な診断技術のあふれている今日、尿の一般検査法は、ともすれば軽視されがちでありますが、スクリーニング検査として、診断の足がかりとして、尿検査上の重要性はいまも失われていないといえます。 |
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